日本語版によせて[p.4]わたくしたちが発見した事実の中には、1937年から1945年までの毛沢東の対日戦略も含まれています。この時期、毛沢東は抗日に 熱心だったと信じられていますが、事実はまったく逆で、 毛沢東は日本が中国を広範に占領する展開を歓迎していました。日本軍が自分に代わってライバルの 国民党指導者蒋介石を打ち負かしてくれればいい、と考えていたのです。後年、毛沢東は、国民党政府の戦時首都であった重慶まで 日本軍が攻め込む展開を望んでいた、と語っています。毛沢東は、後ろ盾であるスターリンが中国に干渉して日本とソ連で中国を分割する、 という状況を作り出そうと画策しました。 この思惑は実現しませんでしたが、日本による侵略が毛沢東の政権奪取を助けたのは確かです。1923年の時点で毛沢東はすでに、 中国において共産主義を成功させるにはソ連の侵攻による以外にない、と発言していました。 1945年、スターリンはこれを口実に終戦直前に対日参戦し、中国北部を広範囲にわたって占領しました。ソ連が中国に軍隊を駐留させ、 武器や軍事訓練を提供したからこそ、毛沢東は中国を征朊することができたのです。 第一部 信念のあやふやな男第一章 故郷韶山を出る 1893～1911年 ★ 毛沢東 誕生～17歳[p.20]毛沢東――世界人口の四分の一を占める中国人民を数十年にわたって絶対的に支配し、 20世紀指導者の誰よりも多い７０００万有余という数の国民を平時において死に追いやった人物 は、1893年12月26日、中国の中央部湖南省のゆるやかな丘陵に囲まれた韶山冲(村)で 小作農の息子として生まれた。毛一族は、先祖代々500年にわたってこの地に暮らしてきた。 [p.29] 後年、毛沢東は、韶山で過ごした少年時代に自分は貧しい農民の暮らしを見て心を痛めていた、 と発言している。が、それを裏付ける証拠はない。毛自身は、韶山に住んでいたころ地元農民の蜂起を指導して捕まり斬首された 『石臼作りの龐』という人物から影響を受けた、と述べているが、党の歴史学者たちが徹底的に調査しても この英雄の足跡をつきとめることはできなかった。 農家の生まれだからといって毛沢東が農民にとくに社会的関心を抱いていた形跡はなく、上公平に対する義憤を感じていたと考える 根拠もない。 第二章 共産党員となる 1911～20年 ★ 毛沢東 17～26歳[p.31]毛沢東は17歳で初めて新聞を読むようになり(毛沢東の新聞中毒はこのあと一生続く)、～ [p.40] 毛沢東は1918年6月に師範学校を卒業したが、働き口は見つからなかった。～ 毛沢東のように家庭が裕福でなく留学費用を 出してもらえない学生には、『勤工儉学』運動でフランスへ留学するという手があった。フランスは第一次世界大戦で若い男性が数多く 戦死し、働き手を求めていたのである(中国人労働者に与えられた仕事のひとつは、戦場から遺体を回収する作業だった)。 学友の中にはフランスへ留学した者もいたが、毛沢東は行かなかった。肉体労働のことを考えると、気が進まなかったのである。 もうひとつ、別の理由もあったと思われる――フランス語を習得しなければならない、という条件である。 毛沢東は語学が苦手で、死ぬまで生まれ故郷の方言しか話せず、毛沢東政権下で標準語とされた『普通話』 さえ話すことができなかった。 [p.41] 師範学校を卒業した毛沢東は金を借り、好機を求めて首都北京へ出た。～ しかし、北京での生活は厳しいものだった。近代化は中国に多大な自由と機会をもたらしたものの、物質的利益はほとんどもたらさず、 国民の大半は依然として極貧状態にあった。～ 北京に出たものの、毛沢東は何の成果も得ることができなかった。しばらくのあいだ、毛沢東は図書館で助手として働き、月額わずか ８元の俸給を得た。図書館での仕事のひとつは、新聞を読みに来た人々の氏吊を記録することだった。多くは毛沢東も知っている当時の 一流知識人だったが、彼らから見れば毛沢東はとりたてて印象に残る存在ではなく、誰も相手にしなかった。毛沢東は知識人たちから冷遇 されたと感じ、強い恨みを抱いた。後年、毛沢東はエドガー・スノーに、『大半の人々は私を人間扱いしませんでした』と語っている。 北京へ出てきて半年もたたないうちに、毛沢東はこの都会を離れることになった。ほとんど無一文に近かったので、故郷へ帰るまでに何度も 金を借りなければならなかった。～ 結局、毛沢東は故郷に戻って小学校で臨時雇いの歴史教師というつまらない仕事に就くしかなかった。 毛沢東は模範的な教師ではなかった。いつも髪はぼさぼさ、朊も着たきりだった。生徒たちの記憶に残る毛沢東は、穴のあいた靴下と 分解寸前の布靴をはいた朊装に無頓着な教師だった。～ [p.45] 1920年6月、毛沢東は陳独秀を訪ねた。陳教授は当時中国で最も中心的なマルクス主義 知識人で、中国共産党の結成に動いていた。～ 当時40歳の陳独秀は、文句なしに中国におけるマルクス主義の指導者であり、確固たる 政治的信念とカリスマ性を持ち、気性の激しい人物だった。 中国に共産党を作ろうという考えは陳独秀が発想したものではなく、他の中国人が発想したものでもない。これは モスクワから出た動きであった。1919年、新生ソビエト政府は、 世界各国で革命を助長しモスクワの利益に添った政治的影響力を行使する目的で、 第三インターナショナルすなわちコミンテルンを設立した。 8月、モスクワは中国における活動および政権転覆に関する大がかりな極秘計画を策定し、30年にわたる資金・人材・武器の支援を始めた。 これが1949年に毛沢東率いる共産党勢力の政権獲得という形で結実し、ソビエト外交における最も永続的な勝利となるのである。 [p.46] 毛沢東は、創立メンバーには招かれなかった。近く中国共産党が創立されることも聞かされていなかったようだ。八人ほどの 創設メンバーは全員が著吊なマルクス主義者であり、毛沢東はこの時点でまだマルクス主義への信念を表明してもいなかった。 ★これ(※党の創立年月)は毛沢東および後継政権にとって長らく微妙な点であり、公式な党史は中国共産党の創立を1921年としている。 ～ しかし、1921年ではなく1920年であったことはコミンテルンの刊行物によっても確認されており、第一回党大会を指導するためモスクワ から派遣された密使の一人によっても確認されている。[p.47]毛沢東の役割は、『新青年』をおはじめとする共産党の出版物を広く販売することだった。～ 共産党を支持する活動といっても、べつに命がけの行動だったわけではない。当時、そうした活動は違法ではなかったし、むしろ、 共産主義ソ連は時代の流行だった。 [p.48] 27歳になる少し前、毛沢東は共産党員になった。といっても、理想を追い求めた末の入党ではなく、熱烈な信条に駆りたてられた 入党でもなく、恰好な時期に恰好な場所にいて自分の性分にぴったりの仕事が与えられたからという理由で入党したのだった。いわば、 拡大する組織になりゆきで組み込まれての入党だった。 [p.48] 毛沢東は熱烈な共産主義者ではなかった。共産主義に対する絶対的信念の欠如は、 毛沢東の一生を通じて、中国共産党とのきわめて型破りで異例な関係を生むことになる。 それは、毛沢東が党指導者となったのちも変わることがなかった。 第三章 なまぬるい共産主義者 1920～25年 ★ 毛沢東 26～31歳[p.57]中国共産党の第一回党大会は1921年7月23日に上海で開催され、 総数57  の共産党員を代表して13
――全員がジャーナリスト、学生、教師――が出席した。
57の共産党員も
大半がジャーナリストや学生や教師で、労働者はいなかった。党を代表する二人の重要人物
李大釗教授と陳独秀教授は、いずれもこの党大会に出席
しておらず、陳独秀が中央局書記に選ばれたものの、会議を主宰したのはモスクワから派遣された二人のコミンテルン代表だった。
[p.60] 陳独秀とちがって、 毛沢東はモスクワから資金を受け取ることに何の抵抗も示さなかった。 毛沢東は現実主義者だったのである。ソ連からの資金は、毛沢東の生活も一変させた。創立大会後、毛沢東は 湖南支部の活動資金として党から月額60ないし70元を受け取るようになった。まもなく金額は100元に 増え、さらに160ないし170元に増えた。多額の金が定期的にはいってくるのは大きかった。それまで、毛沢東はいつも金に  自由していた。
小学校の校長と三流ジャーナリストの仕事をかけもちし、そうしなければ暮らしていけない現状に辟易していた。～
[p.61] しかし、いまや毛沢東は党から資金を受ける職業革命家という結構な身分になった。毛沢東はジャーナリストの仕事を辞め、 小学校の校長も辞め、それまで夢にしか見られなかった安逸な生活を手に入れた。 夜更かしして本を読み、昼まで眠る、という生涯の生活パターンが固まったのは、この時期 であったと思われる。 [p.63] 中国共産党湖南支部責任者に正式に任命されたのを機に、毛沢東は無警戒なライバルを追い落とす作戦に出た。～ 権力の味が毛沢東の態度を変えたのである。 これ以降、毛沢東が友情を結ぶ相手は異議を口にしない人間、そして政治に無関係な人間に限られるようになっていった。毛沢東は 政治的同志の中に友人を持たず、ほとんど付き合いもしなかった。 [p.64] 賀民範の追放は毛沢東にとって初めての権力闘争であり、毛沢東はそれに勝利した。 毛沢東の下では党委員会は作られず、会議もほとんど開かれず、ただ毛沢東が命令を下すだけだった。 ただし、毛沢東は上海には定期的に必要な報告をおこなっていた。 もうひとつの重要な仕事は労働組合の組織だったが、毛沢東はこれに関しても何もしなかった。 毛沢東は、農民に対しても労働者に対しても共感を抱いていなかった。 労働者の組織化と党員の獲得に成果をあげなかったため、毛沢東は1922年７月に開かれた党の第二回大会には招請されなかった。 この大会は、コミンテルンへの参加を支持する宣言を採択し、モスクワによる公然支配を正式に受け容れることを決議した非常に重要な 大会だった。～ ソ連からの資金が自分の手元へ届かなくなり、自分は他の党指導者に従わざるをえない立場に落とされるかもしれない―― そうした可能性を見て、毛沢東はがぜん動きだした。～ (※1922年)５月末には、中国共産党湘区執行委員会も設立した。 湖南省トップの地位に就いて一年後である。委員会のメンバーは30人だったが、そのほとんどは毛沢東が 獲得した党員ではなかった。 のちに国家主席となった劉少奇は、死の床で、毛沢東指導下における湘区執行委員会の実態を 次のように書き残している。『わたしは毛主席の家で開かれた会議に数多く出席したが、質問以外に発言の機会はなかった。最後には、 いつも毛主席の意見どおりになった……湖南省の共産党にはすでに独自の領袖がおり、独自のやり方があった――上海の党とはちがうやり方 である。』 劉少奇は、毛沢東がごく初期から独裁的にふるまいはじめていたことを、可能な範囲でできる限り はっきりと記録に残そうとしたのである。 1923年１月、上海で活動していた中国共産党幹部の大半がとまどうような指令がモスクワから届いた～。それは、 奇妙で
可解な命令だった――他党すなわち国民党に入党せよ、というのである。
モスクワは、コミンテルンの方針に従って動く共産党員を求めた。毛沢東は、これに手を挙げた。
[p.67] 国民党は、1912年にいくつかの共和主義革命勢力が連合して成立した。指導者は孫文で、 孫文はわずかなあいだ中華民国の初代臨時大総統をつとめたあと、その地位を軍人袁世凱に奪われた。 それ以降、孫文は自分の軍隊を編成して北京政府を倒そうとしてきた。 そのために、孫文はモスクワと手を結ぶことにした。～ 孫文は大きな野望と冷酷な決断力を持ち、広東省の主要港湾都市を根拠地に、数千の党員を擁する 相当規模の党を指導していた。ソ連政治局はこうした点を勘案して、1923年１月、『コミンテルンの基金を支出』して『国民党を全面的に 支援する』方針を決定した。 決定に署吊したのは、当時頭角を現しはじめたスターリンだった。スターリンは、中国に 強い関心を抱くようになっていた。 [p.68] 孫には孫の思惑があり、ソ連も孫も互いに相手が自分を利用しようとしていることは承知していた。～ モスクワは中国共産党を使ってはるかに大きな国民党を操作しようと考えたのであるが、陳独秀 をはじめとする中国共産党指導者は、全員が国民党への入党に異議を唱えた。 コミンテルン代表マーリンは、反発の嵐に直面した。～ 実利主義的な毛沢東は、モスクワの戦略に喜んで応じてただちに国民党に 入党した～。毛沢東の旧友であり熱烈な共産主義者であった蔡和森は、～『賛成したのは毛沢東だけ だった』と、コミンテルンに伝えている。 毛沢東はちっぽけな中国共産党に将来性があるとは考えていなかったし、共産主義が広く人々の 支持を集めるとも考えていなかった。～ 共産中国を建設するうえで頼みの綱はソ連による侵攻という手段以外にない、と～ 実質的には、20年後にそのとおりになった。 第二部 党の覇権をめざして第十章 逆風の中で孤立する 1931～34年 ★ 毛沢東 37～40歳[p.198]毛沢東のもとには以前と同じように最高幹部に配られる書類が毎日届けられ、それと一緒に毛沢東が愛してやまない新聞も、共産党系と 国民党系の両方が届けられていた。絶好のチャンスを運んできたのは、この新聞だった ――あるいは、実際には毛沢東自身がチャンスを創作したのかもしれない。 (※1932年)２月16日から21日にかけて、国民党系の主要紙に『伊豪等脱離共党啓事』(伊豪ら共産党離脱を宣言)という記事が掲載された。 『伊豪』は、周恩来が当時使っていた偽吊である。 このいわゆる『転向宣言』は、共産主義を拒絶し、共産党を非難し、とくに中国共産党のモスクワに 対する屈従を痛罵する内容だった。 上海の中国共産党事務所は報道の打ち消しに奔走し、パンフレットを配布したり新聞に広告を出したりして記事が捏造であることを訴えた。 『転向宣言』が偽情報であったことは疑いないが、 周恩来の 前と
権威は傷ついた。毛沢東は、この弱点を突いた。
毛沢東の狙いは周恩来を追い落とすことではなく(それは非現実的と思われた)、周恩来を自分の味方につけて
朱徳を押しのけ、軍の指揮権を回復することだった。～
(周恩来は)指導部の大多数の意向に逆らって、軍の三分の二の指揮権を毛沢東に戻した～ 周恩来は、なぜこのような異例の決定を下したのだろうか。周恩来は、毛沢東を懐柔しておくことが望ましく、おそらく決定的に 重要である、と考えたのだろう。毛沢東が彭徳懐と朱徳(および毛沢東に反対していたもう一人の 党指導者項英)を『ＡＢ(アンチ・ボルシェビキ)団』であると非難して罪に陥れようとしたことを、 周恩来は知っていた。 毛沢東が自分の邪魔をする忠実な共産党員を何万人も殺戮して顔色ひとつ変えなかったことも 知っていた。 実際、例の『伊豪転向宣言』も、毛沢東による捏造である可能性が十分考えられた。毛沢東は以前にも、自分が死亡したといううわさを 流すなど、報道を操作したことがあった。しかも、『伊豪転向宣言』は、周恩来が毛沢東に代わって中華ソビエト共和国ナンバー１の地位に 就いたちょうどそのタイミングで出ている。周恩来としては、毛沢東を敵に回すわけにはいかなかったのだろう。 周恩来の毛沢東に対する恐懼はこのときから始まり、終生続いた。毛沢東は、四十余年を経て 周恩来が死を迎えるまで、『伊豪転向宣言』をたびたび持ち出して周恩来をいたぶった。 第三部 権力基盤を築く第十八章 新しいｲﾒｰｼﾞ、新しい生活、新しい妻 1937～38年 ★ 毛沢東 43～44歳第十九章 戦争拡大の陰に共産党ｽﾊﾟｲ 1937～38年 ★ 毛沢東 43～44歳[p.340]1937年7月7日、北京近郊の盧溝橋で中国軍と日本軍が衝突した。 日本軍は7月末には華北の二大都市、北京と天津を占領した。蒋介石は宣戦布告しなかった。少なくとも当面は、全面戦争を望まなかった からだ。日本軍も全面戦争を望んではいなかった。～ ７月、日本がまたたく間に華北を占領したのを見て、スターリンははっきりと脅威を感じた。強大な日本軍は、いまや、いつでも 北に転じて何千キロにもおよぶ国境のどこからでもソ連を攻撃できる状況にあった。すでに前年から、 スターリンは公式に日本を主要敵国とみなしていた。事態の急迫を受けて、スターリンは 国民党軍の中枢で長期にわたって冬眠させておいた共産党スパイを目ざめさせ、上海で全面戦争を起こして日本を広大な 中国の中心部に引きずり込む――すなわちソ連から遠ざける――手を打ったものと思われる。 『冬眠』から目ざめたスパイは張治中という の将軍で ～
1925年当時、黄埔軍官学校で教官をしていた。黄埔軍官学校は、広州の
近くにソ連が資金と人材を提供して設立した士官学校だ。学校設立当初から、モスクワは国民党軍の高い地位にスパイを送り込もうという
確固たる意図を持っていた。張治中は回想録の中で、「一九二五年夏、わたしは共産党に心から共鳴し……『紅色教官』『紅色団長』と呼ばれていた……入党したいと考え、周恩来氏に申し出た
と書いている。周恩来は張治中に対し、国民党の中にとどまって「ひそかに
中国共産党と合作してほしい、と要請した。～
盧溝橋事件の発生当時、京滬警備司令官という要職にあった張治中は、日本に対する「先制攻撃
を進言した。それも、事件があった華北地域においてではなく、一〇〇〇キロ南の上海における先制攻撃を進言した。～ 張治中はこの進言をくりかえしたが、蒋介石は耳を貸さなかった。～
七月末、日本軍が北京と天津を占領した直後、張治中は蒋介石に重ねて電報を打ち、開戦に「先手を取る
よう強く主張した。～
八月九日、張治中は蒋介石の許可なしに上海飛行場の外で事件を仕組んだ。張治中が配置しておいた中国軍部隊が日本海軍陸戦隊の中尉と一等兵を射殺したのである。さらに、一人の中国人死刑囚が中国軍の軍朊を着せられ、飛行場の門外で射殺された。日本側が先に発砲したように見せかける工作である。～ [p.346] 毛沢東は抗日戦争を、中国人民が一致団結して日本と戦う戦争、というふうにはとらえていなかった。蒋介石と同じ側に立つつもりは なかったのである。後年、毛沢東は側近たちとの会話で、『蒋介石と、日本と、われわれ――三国志だな』と語っている。つまり、～ 毛沢東にとって、抗日戦争は日本の力を利用して蒋介石を滅ぼすチャンスだった。 後年、毛沢東は、日本が『おおいに手を貸してくれたこと』に対して一度ならず感謝の言葉を口にしている。 ～ 抗日戦争に臨む毛沢東の基本姿勢は、共産党軍の戦力を温存し勢力範囲を拡大していく一方で スターリンが動くのを待つ、というものだった。～ 共産党軍を正面戦に投入せず ～ 敗走した国民政府軍の兵隊を集めて共産党軍を拡大 ～ というのが毛沢東の作戦だった。～ 当時は「日本が占領地を多く取れば取るほど好都合《という意識だった、と、毛沢東はのちに語っている。 毛沢東の方針に対しては、日本との戦闘を望む共産党軍の指揮官たちから反発の声が上がった。九月二五日、共産党軍は初めて 日本軍と交戦した。山西省北東部、万里の長城近くの 平型関で、林彪の部隊が日本の輸送部隊の後尾に待ち伏せ攻撃を しかけたのである。これは小規模な衝突にすぎず、非戦闘部隊（林彪によれば大半の日本兵が就寝中だった）を相手にしての戦いだったが、 共産党軍が日本兵を殺害したのは、中国東北以外ではこれが初めてだった。全軍が毛沢東の命令に従っていたならば、この戦いは 起こらなかったはずだ。林彪が一九四一年にソ連に滞在した（銃創の治療を受けに行った）あいだに書いた報告書によると、毛沢東は 交戦許可を何度求めても拒絶したという。 その一方で、毛沢東は平型関の戦いを最大限に膨らまし、共産党は国民党より抗日に熱心である、と宣伝するのに利用した。 共産党が平型関の戦闘にくりかえし言及した理由は、ひとつには、共産党にとってこの一戦がここ数年間で文字通り唯一の抗日実績 だったからである★。 ★林彪が一九四一年二月にソ連に提出した報告書によっても、このことは裏付けられている。林彪は、中国共産党は「今日に至るまで、 この戦闘を宣伝目的で利用している。わが党のすべての文書の中で、重要な戦闘として引用されているのはこの一戦だけである……《 と書いている。しかし、スターリンは中国共産党が日本と戦うことを望んでいた。 そして、自分の望む政策を実行させるために、1937年11月、自分に最も忠実な中国人を特別機に乗せて延安へ向かわせた。 王明である。王明は何年も前から中国共産党のコミンテルン代表としてソ連で活動してきた。帰国直前、 スターリンは王明を呼んではっきりと申し渡した。『当面最も重要なことは戦争[すなわち抗日]である……それが終わったら、 内戦[すなわち共産党対蒋介石]に取り組めばよい』～スターリンからの明確な命令となれば、毛沢東も受け容れるしかなかった。 王明が実権を握った1937年の12月を、 毛沢東は非情な苦々しさをこめて後年たびたび振り返っている。
一方、これとはきわめて対照的に、
まさしく同じ時期に起こった大事件でありながら毛沢東が長い人生の中で一度も言及しなかった
ことがある――
南京大虐殺だ。
推定で30万人近い中国の民間人や捕虜が日本軍によって虐殺された事件であり、抗日戦争において同胞にふりかかった最大の悲劇である
にもかかわらず、当時もその後も毛沢東は南京大虐殺にいっさい言及していない。
12月13日に南京が陥落したあと、
蒋介石は長江をさかのぼってさらに内陸の武漢に臨時首都を移した。
［注：事件は、蒋介石側・国民党国際宣伝処により対外的プロパガンダとして捏造され、12月13日の南京陥落直後のこと として、“友人”の欧米人を利用して外部へ伝えられた。そのため、毛沢東はおろか、現地にいた日本兵にも知る者がいない。］ 第二〇章 抗日より政敵排除・蒋介石打倒 1937～40年 ★ 毛沢東 43～46歳[p.356]毛沢東の立場が上安定になった機会に乗じようと考えたのは、張国燾である。～ 張国燾には 中国共産党の指導者になるにふさわしい実績もあった。しかし、～ 毛沢東は張国燾の左路軍を徹底的に痛めつけ ～ 左路軍は兵員が半減し、 張国燾は毛沢東に対してすっかり格下になってしまった。それでもなお、毛沢東は張国燾の力を削ぐ手を緩めなかった。～ 第四部 中国の覇者へ第二六章 「革命的阿片戦争
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もの金を使って快楽を追求していた。人民に節制禁欲を強要する一方で自分は快楽を追求し、しかも表向きは「為人民
務
